アメリカ進出を検討する際、成功事例だけでなく、
「どのような準備不足が苦戦や撤退につながるのか」を知っておきたい方も多いのではないでしょうか。
日本の製造業のアメリカ進出には、繰り返し起きている「つまずきのパターン」があります。
本記事で取り上げる事例では、製品そのものだけでなく、
価値の伝え方や現地での営業体制に課題が見られました。
私たちAssista LLC.は、イリノイ州シカゴ近郊を拠点に、日系企業の米国進出を支援してきました。
代表・金子の米国市場でのビジネス経験は30年。
1200社の現地企業との取引と、500社を超える日系企業の支援を行ってきました。
その支援・相談の中では、成功だけでなく、撤退に至った事例も間近で見てきました。
この記事では、実際の事例をもとに、
営業・販路開拓の面で繰り返し見られる失敗のパターンと、その回避策を中心にお伝えします。
※本記事の事例は、実際に支援・相談に関わったケースをもとにしていますが、企業が特定されないよう業種や経緯の一部を変更しています。
実例:準備したはずなのに、3年で撤退した自動車部品メーカー
ある自動車部品メーカーの例です。
この会社は、決して無計画に進出したわけではありません。
弁護士や会計士など、法人設立や手続きの専門家にも相談していました。
それでも、進出後に問題が次々と起きました。
- 現地法人の経営が日本のやり方と大きく異なり、従業員の採用や経理面でトラブルが続いた。
早期退職も相次いだ。 - 商品を仕入れて再販売するディストリビューターや、コミッション型で営業を担うセールスレップと契約したが、期待した営業活動につながらず、1年で契約終了になった。
- 費用をかけて展示会に出展し、引き合いは獲得できた。
しかし、その後メールや電話でフォローしても返事がもらえなかった。
売上計画は未達が続き、進出から3年で撤退という結論になりました。
この事例に見られた課題の一つが、法人設立の準備とは別に必要になる、
「現地で売る体制」の不足でした。
手続きの専門家はいても、売るための準備は別物なのです。
繰り返される失敗パターン5つ
私たちが現場で繰り返し見てきた、代表的なつまずきを5つ挙げます。
パターン1:英語資料が「日本語の直訳」のまま
ご相談の中で繰り返し見られるケースの一つが、
ウェブサイトや製品カタログを、日本語からそのまま英訳して使っているケースです。
日本語から直訳の資料は、英文の文法は正しくても、現地のキーパーソンの思考方法とはアプローチが異なり、彼らにとってのメリットが何なのかが伝わりません。
米国の決定権者が知りたいのは、製品の仕様の羅列ではなく、「これを採用すると、自社のコストとリスクがどう変わるか」です。
パターン2:製品仕様が「相手の使う単位」に対応していない
見落とされがちですが、影響が大きいのがこれです。
米国では、業界や顧客によって、メートル法(ミリ・キログラム・摂氏)と
ヤード・ポンド法(インチ・ポンド・華氏)が使い分けられています。
図面やカタログをメートル法だけで作成すると、顧客側で換算の手間が生じ、換算ミスのリスクも生まれます。
それだけで、合理性を重んじる米国企業の検討の候補から外れてしまうこともあります。
ターゲット企業が使う規格を事前に確認し、必要に応じて単位を併記することが重要です。
パターン3:問い合わせへの回答が遅い
日米の時差もあり、問い合わせへの回答に3営業日かかってしまった。
返事を待つ間に、せっかく引き合いをくれたお客様の関心が離れてしまった――実際にあったケースです。
日本本社だけで検討して返事をする体制では、初動がどうしても遅れます。
すぐに完全な回答ができない場合でも、まず受領の連絡と回答予定を伝えることが大切です。
私たちが現場で目安としてお勧めしているのは、24〜48時間以内の一次回答です。
これ以上時間がかかると、先方が「この企業は回答をするつもりがない」「こんなにアクションが遅い会社とは今後の取引も先が思いやられる」と判断し、その後の連絡が途絶える可能性が高まります。
パターン4:現地パートナーに「任せっきり」にする
ディストリビューターやセールスレップと契約したのに、精力的に動いてもらえない。
これも非常によくあるご相談です。
現地パートナーと契約しても、それだけで継続的な営業活動が保証されるわけではありません。
彼らは複数メーカーの製品を扱っていることが多く、「売りやすい製品」から優先的に売るからです。
メーカー側が、パートナーが売りやすいように動くことが重要です。
例えば、展示会への出展、引き合いの紹介、見込み客への同行訪問、技術説明のサポートなどです。
こうした役割や費用の分担は、契約時に決めておきます。
セールスレップの仕組みや、コミッション相場、独占契約(Exclusive)・非独占契約(Non-Exclusive)の使い分けは、セールスレップとは?米国販路開拓の仕組み・手数料・代理店との違いで詳しく解説しています。
パターン5:日本での成功体験にこだわりすぎる
日本で実績のあるやり方を、そのまま米国に持ち込んでしまうケースです。
日本での成功事例を前面に出した営業が、米国企業の決定権者には刺さらなかった。
現地法人の経営でも、日本のやり方への固執が、
ローカル社員との関係悪化や早期退職につながった。
どちらも、繰り返し見てきた光景です。
「あと少し」で成功を逃すケースもある
技術面で差別化できる可能性があったのに、成果につながらなかった例もあります。
当時の市場調査では、同等の競合製品が市場にあまり存在しなかったため比較が困難で、
技術力のある製品だったにもかかわらず、価格面がネックになり採用に至らなかったケースです。
このケースでは、技術的な違いを「顧客にとっての価値」として十分に説明できていなかった可能性があります。
価格で比較される土俵に乗るのではなく、「この技術が相手の課題をどう解決するか」に
重点を置いた営業ができていれば、違う結果もあり得たかもしれません。
もちろん、伝え方を変えれば必ず採用された、という意味ではありません。
価格差そのものが許容範囲だったか、ターゲット選定は適切だったかも、あわせて検証が必要です。
成功した会社と失敗した会社の「分かれ目」
同じような規模・業種でも、成果には差が出ます。
私たちの支援現場で見られた傾向は、次の3つです。
1. 製品案内が「数字とデータ」で語れているか。
設計担当者や購買担当者にとってのメリットを、数字やデータで説明できる会社ほど、
商談を具体化しやすい傾向がありました。
(もちろん、受注には価格・納期・認証・競合状況なども影響します)
2. 現地に合わせて既存の方法を変えられるか。
日本での成功パターンを一度手放し、米国の顧客に合わせて資料や営業方法を見直せる会社では、初期の反応をもとに改善を進めやすい傾向がありました。
3. ローカル社員と良い関係を築けているか。
米国法人の現地社員との情報共有や役割分担ができている会社は、組織運営と営業活動を継続しやすい傾向がありました。
撤退リスクを下げるために、進出前に確認したいこと
これから米国での販路開拓を始める企業に、営業面で最低限お勧めしたい準備は次のような流れです。
- 現地市場・競合の調査を綿密に行う
- 販売ターゲットとなる企業を明確にする
- そのターゲット企業のキーパーソンに、「自社製品を採用するとどんなメリットがあるか」が伝わる販促資料を作る
逆に、特に避けてほしいのは、「日本語資料の直訳」と
「パートナー任せ」のまま進出することです。
なお、実際の進出判断では、このほかに規制・認証、採算性、物流、販売方法の比較なども検討が必要です。
これらは業種や製品によって大きく異なるため、それぞれの専門家への確認をお勧めします。
米国進出からの撤退は、必ずしも「失敗」とは限らない
最後に、撤退について一つお伝えしたいことがあります。
撤退は、損失を広げないための重要な経営判断でもあります。
問題なのは撤退そのものではなく、「感覚だけで判断を先送りにすること」です。
売上未達が続いたときは、商談数、受注率、採算、追加投資の必要性などを確認し、継続・縮小・立て直し・撤退を検討できる基準を、進出前から決めておくことをお勧めします。
まとめ:多くのつまずきは「伝え方」と「体制」に共通点がある
本記事で紹介した事例では、製品そのものよりも、
「価値の伝え方」と「現地で営業・対応できる体制」に共通する課題が見られました。
価値の伝え方と現地で動ける体制を整えることは、米国市場での失敗リスクを下げる重要な準備です。
ただし、成果が出るまでには時間がかかり、市場性や価格などによっては計画の見直しが必要になる場合もあります。
自社だけで現地の状況を把握することが難しい場合は、状況を率直に共有しながら進められる現地の支援者を活用することも、選択肢の一つです。
実際に私たちが支援してきた企業の事例は、成功事例ページでご覧いただけます。
Assista LLC.は、シカゴを拠点に20年、日本企業の米国営業拠点としての機能を担ってきました。
現地セールスレップの発掘・紹介から、契約後の管理や月次報告まで、米国で営業を続けるための体制づくりを支援しています。
「自社の場合はどこでつまずきそうか」「今の準備で足りているか」――そうした段階でのご相談も承ります。
初回のご相談は無料です。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
※本記事は、米国進出に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、法的・税務・会計上の助言ではありません。
雇用、法人運営、セールスレップやディストリビューターとの契約については、米国法に詳しい弁護士・会計士などの専門家へご相談ください。
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